幻想ミステリ博物館 館長BLOG 読書編

HP「幻想ミステリ博物館」の「館長日記」のうち、読書に関する話題を特化して、BLOGに移行しました。

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ルース・レンデル氏逝去

 近頃すっかり葬式ブログと化したこのブログですが、半年ぶりに更新してもやはり訃報です。。。
 ルース・レンデル氏が5月2日に85歳で亡くなりました。処女作の『薔薇の殺意』以来のウェクスフォード警部シリーズ、主にサイコスリラーに分類されるノン・シリーズ、そして別名バーバラ・ヴァイン名義と三本だてで生涯に60冊以上の長編を書いた、現代英国を代表する作家です。
 彼女の作品は本邦では、西暦が変った頃からぷっつりと翻訳が途絶えてしまって、すっかり近年では忘れ去られた作家となりつつありましたが、角川や創元、光文社、扶桑社などが毎月のように訳本を出版してくれたブームの時代もありました。訳本を積み上げたところ、1980年代に32冊、かためうちで紹介されていました。私もちょうどミステリを読みそめた学生だった頃で、一直線に悲劇的結末に墜ちてゆく独特の作風に浸って酔っていました。
 ブームは最終的には、早川書房がポケミスで細々と当時の近作を紹介してくれる所に落ち着いたのですが、その早川のミステリマガジンの記念号(何号かは失念しました)に人気作家としてお祝いのコメントを求められて、秘書が書いたとおぼしき木で鼻をくくったようなごくごく短い電報文みたいなのが載って以来、早川も翻訳をぷっつりとやめてしまったのでした。もとより新聞記者出身で、労働党の議員になって政治活動も忙しかったのでしょうが、これでは極東の読者に失礼ではないかと憤った記憶があります。
 生い立ちも純粋な英国人ではなかったし、作風からもちょっととんがった人だろうと察せられました。しかし、ブーム当時から愛読していた読者からすると、彼女の筆がいつも社会から取り残された人々に寄り添うようにその哀歓を情念的に描きだす点が魅力で、そうしたルーサー(負け犬)を突き放すようなプロットをこれでもかと繰り出してくるのも、卑近な人物像を悲劇の主人公に仕立て上げるためだったように思われます。市井のちょっとペキュリア(奇妙)な人々を彼女はギリシャ悲劇やシェイクスピア作品の王や女王に見せてくれたのです。
 真っ逆様に悲劇に逢着するプロットを持った『わが目の悪魔』『ロウフィールド館の惨劇』『荒野の絞首人』『地獄の湖』『殺す人形』『引き攣る肉』といったノン・シリーズの傑作群が現在新刊で入手できないのは、新しい読者層に対して勿体無いです。今でこそこの国でも、湊かなえ氏真梨幸子氏のような「2ちゃんねる鬼女板」的発想のサスペンス作品が広く受け入れられるようになりましたので、レンデルのかつての傑作群も、よりアクチュアリティを獲得したのではないかと。
 ブームの頃、故・瀬戸川猛資氏がミステリマガジンの記事で、レンデル作品をひとくくりに「マズしい感じ、ああ、やだやだ」みたいに揶揄したことがありました。その一文は瀬戸川氏の名作評論集『夜明けの睡魔』に収められているので、ご存知の方もおられることでしょう。
ただ、この一文が、レンデルがヴァイン名義でより深化した作風に変わる前に書かれていることもあって、一方的に偏見を持った言いがかりにしか読めないのは、レンデル・ファンとしては大変悔しいです。流行りものだから噛み付いてみました、というようにしか、受け取れないのです。
 瀬戸川氏はワセミス派閥で北村薫氏や折原一氏、新保博久氏の先輩として知られ、私もその著書をつねづね枕頭の書としているのですが、コリン・デクスターやP・D・ジェイムズを高く評価された一方で、ブームのレンデルに辟易したとしか言いようのない論調には、ご本人の為にも書くべきではなかったのではないかと思います。現代でも特に英国のミステリを論じるときにバイブル的影響力を持つ評論書だけに、このいささか軽率な一文が惜しい気がいたします。
 P・D・ジェイムズ氏の訃報の時にも思いましたが、近頃愛読してきた作家の訃報に接することが多く、特に1980年代ころにピークを迎えた作家がこのところ鬼籍に入ることが多く、私も気持がうち沈んでいます。国の内外を問わず新しい作家には興味がなくなってしまいました。せめてまだ翻訳されていないレンデル氏の作品(Wikiで調べると19冊も未訳が!!!!)が一冊でも紹介されることを願ってやみません。
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  1. 2015/05/03(日) 08:01:06|
  2. 英国
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