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実はクロフツの初期作品2作を未読だった(『樽』『ポンスン』はさすがに何度か読んでますよ)。意識して残していたのだが、まあフレンチものも出揃ったことだし、この際読んじゃえ!と思ったわけだ。ここのところ色んな作家の未読本消化に勤しんでいるので、その一環。
『製材所の秘密』(1922)。サンデータイムズのベスト99リストに入っている作品。フランスとイギリスを股にかけた国際密輸組織の陰謀を、二人の素人が暴こうとする前半は、フランスのボルドーやランド地方の風光明美な中で、『ボートの三人男』よろしく冒険が描かれて、イギリスの由緒正しき冒険小説の、男の子っぽい味わいがある。
その組織に絡んで殺人が発生して、スコットランドヤードのウィル警部が捜査する後半、と二度おいしい。鉄道ももちろん出てきます。「訳者あとがき」で「『樽』と同工異曲」と書かれているが、全然趣が違うっす。この訳者、『樽』を読んだことあるのかね?
『フローテ公園の殺人』(1923)。南アフリカ連邦の「ミッデルドルプ(Middeldorp)」市にある「フローテ公園(Groote Park)」のトンネルで轢死体が発見され…という発端だが、この地名、どちらも調べても出てこない。おそらくクロフツの創作で、オランダにある「De Groote Peel国立公園」から連想されたようだ。だからオランダ語方言のアフリカーンス語読みの地名になる。
こちらも二部構成で、一転、イングランドとスコットランドの境界あたり、これまた風光明美な峡谷を舞台に、アリバイ崩しが描かれていて、英国地図を開きながら読むと誠に楽しい。現代のロードマップであっても、1920年代となんら変わっていないところが英国らしいし、クロフツを読む楽しみは、この地図通りの描写の生真面目さにある。これも訳者が「退屈な部分もある」と難癖をつけているが、結局クロフツは良き理解者としての翻訳者を得られなかったということかもしれない。それとも、「緻密」であっても決して「退屈」とは思わない私の方が、奇特なのだろうか。
だから、現代の警察小説のリアリズムとも違っていて、犯罪の実状だけを取り出すとミもフタもないケースが多いが、それがベル・エポックの少年小説的味わいのオブラートにくるまれているのが、クロフツの身上である。それをひもとくのはまさに、余生の楽しみと言ってよかろう。ああ、私は迂闊にも、老後の楽しみに取っておいたはずの二長編を、僅か数日で楽しんでしまった。後は…全作再読くらいしかあるまい。さすれば私も、鮎川先生の造語「クロフツィアン」になれるだろうか。
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- 2011/08/11(木) 00:10:24|
- 英国
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