震災で蔵書が壊滅してすっかり心が折れていたのだが、それでも生きているし、余震と停電に怯えども直截の被災ではないし、なんとか日常を取り戻すべく、積ん読消化を始めた(人間いつ死ぬかわからんからねえ)。
『虫とりのうた』でメフィスト賞を取った作家・赤星氏の作品が3作溜まっていたので、手に取ってみた。受賞作と『赤い蟷螂』『幼虫旅館』イッキ読み。
一言でいえば「安い」。本のお値段ではない、ディテールが。そこがたまらんたまらん。虫がウゴウゴ蠢く異形のホラミスだ。私は田舎の子だったので、御器カブリ野郎であろうとキャタピラであろうと、手で掴めちゃう無神経な奴だが、これらの作品は読んでてぞわぞわした。怖いというより生理的にキタ。恰度、休みで家にいれば一日中、ユラユラと余震で脳味噌を揺さぶられるし、『幼虫旅館』なんかタイムリーに大地震でクローズドサークル化してるし(T_T)、ああ、キモチ悪かった。けなしてるんでないですよ。誉めてるの。
昔、戸川純のアルバムに『玉姫様』というのがあって、昆虫テーマのぞわぞわする歌がいっぱい入っていた。CDラックも激しくクラッシュしたので今手許にないが、その中に「昆虫軍」というイヤ~な歌があった。それを脳内再生しながら読んでしまった。パール兄弟のサエキけんぞうが歌詞を書き、ゲルニカの上野耕路がメロディをつけたやつ。戸川独特のうなぎビブラートが炸裂した歌だった。
赤星氏の作に話を戻すと、ホラーとミステリの融合というと近頃代表的な三津田信三の民俗学世界よりも、チープさが際立っていて、そこがたまらんたまらん(また言っとる)。デジャブ溢れる都市伝説を盛り込んだ作風が、まことに楽しい。なんとなく同世代的匂いが漂っていたので略歴を見たら、氏は私の5歳上だった。やっぱりな。平成世代の味付けではない、まるごと昭和の学校怪談のかほり。3作はサーガになっていて、『蟷螂』→『幼虫』→『虫とり』という時系列だ。
ミステリとしてはすぐに話の先が読めてしまうのが難点だが、とにかく毎度毎度キモチ悪い虫づくしを堪能できる。メフィスト賞特設サイトではPNの由来を、「『赤』は私の好きな色、『星』は弟の名前から、『香』は妻の名前から、『一郎』は私が長男なので、それらをくっつけちゃいました」としれっと仰っているが、アカホシ言うたら、テントウムシでしょう?何から何まで虫づくし、今後も注目の作家だ。
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- 2011/03/23(水) 22:29:16|
- 国内ミステリ
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