幻想ミステリ博物館 館長BLOG 読書編

HP「幻想ミステリ博物館」の「館長日記」のうち、読書に関する話題を特化して、BLOGに移行しました。

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レンデル新刊&新作おしらせ

 前回の記事で未訳リストの筆頭になっていた『街への鍵』がポケミスより無事刊行されました。移植手術の患者とドナーが出逢ってしまうという禁断の物語です(読んでる途中)。
 とは言え、これはおそらく、前後の作品『ステラの遺産』『聖なる森』が同じくポケミスで刊行されていることからして、翻訳権を有しているから出した、何かしら早川書房と問題があったのがレンデルの死去で出し易くなった、と見るべきでしょうか。その後の作品が翻訳されるかどうかは正直わかりません。
 未邦訳作品の執筆時期は、作者自身の政治家としての活動時期とも重なります。貴族として叙爵されたので貴族院(上院に当たる)議員になったのですが、もとより労働党支持者で所属も労働党でした。彼女が変化を見据え続けたイギリス社会は、移民、失業、貧困、教育、環境の諸問題といった、沈む大国の様々な暗部を抱えていました。そしてそれらの問題はそっくりそのまま二十一世紀の日本にも出来(しゅったい)しているのです。
 何も社会派としてレンデルを売り込みたい訳ではありませんが、そのような激変する社会の片隅の事件を描き続けた彼女の作品は、いま現在の日本でこそ読まれるべきでしょう。そんな彼女の最後の作品が、あちらでは出版されるようです。
 ○ Dark Corners 2015
 内容無視で訳すと「暗い曲がり角」なのでしょうか。『殺す人形』を彷彿とさせて怖いタイトルです。90年代に入って『シミソラ』『聖なる森』『心地よい眺め』『街への鍵』など社会的問題を扱うことの多かったレンデルです。重い社会的テーマと甘美なサスペンスを止揚させた作風に磨きがかかった90年代の作品を読むと、世紀が変わった後にもまだまだ傑作佳作が未訳のまま埋もれていると思います。原語で読むのも大変なので、なんとかならないものかと思います。
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  1. 2015/08/08(土) 18:24:42|
  2. 英国
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レンデル作品未訳一覧

 どうもWikiはタイトル間違いや刊行年の混乱があるようなので、こちらも参考にされたし。

○ The Keys to the Street 1996 (早川書房より刊行予定)
○ Grasshopper 2000 ヴァイン名義
○ Adam and Eve and Pinch Me 2001
○ The Blood Doctor 2002 ヴァイン名義
○ The Babes in the Wood 2002 ウェクスフォード・シリーズ
○ The Rottweiler 2003
○ Thirteen Steps Down 2004
○ The Minotaur 2005 ヴァイン名義
○ End in Tears 2005 ウェクスフォード・シリーズ
○ The Water's Lovely 2006
○ The Thief 2006 中編
○ Not in the Flesh 2007 ウェクスフォード・シリーズ
○ Portobello 2008
○ The Birthday Present 2008 ヴァイン名義
○ The Monster in the Box 2009 ウェクスフォード・シリーズ
○ Tigerlily's Orchids 2010
○ The Vault 2011 ウェクスフォード・シリーズ
○ The St Zita Society 2012
○ The Child's Child 2013 ヴァイン名義

 こうして見ると、21世紀に入ってからの作品がまったく紹介されていないことがわかる。これを全部出してくれるほど早川も奇特ではあるまいし、せめてウェクスフォードのその後とか、ヴァイン名義作だけでも訳してほしいものだ。短編集も4冊未訳。もったいない。レンデルは今一番過小評価されている英国作家になってしまった。
  1. 2015/05/05(火) 15:25:40|
  2. 英国
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ルース・レンデル氏逝去

 近頃すっかり葬式ブログと化したこのブログですが、半年ぶりに更新してもやはり訃報です。。。
 ルース・レンデル氏が5月2日に85歳で亡くなりました。処女作の『薔薇の殺意』以来のウェクスフォード警部シリーズ、主にサイコスリラーに分類されるノン・シリーズ、そして別名バーバラ・ヴァイン名義と三本だてで生涯に60冊以上の長編を書いた、現代英国を代表する作家です。
 彼女の作品は本邦では、西暦が変った頃からぷっつりと翻訳が途絶えてしまって、すっかり近年では忘れ去られた作家となりつつありましたが、角川や創元、光文社、扶桑社などが毎月のように訳本を出版してくれたブームの時代もありました。訳本を積み上げたところ、1980年代に32冊、かためうちで紹介されていました。私もちょうどミステリを読みそめた学生だった頃で、一直線に悲劇的結末に墜ちてゆく独特の作風に浸って酔っていました。
 ブームは最終的には、早川書房がポケミスで細々と当時の近作を紹介してくれる所に落ち着いたのですが、その早川のミステリマガジンの記念号(何号かは失念しました)に人気作家としてお祝いのコメントを求められて、秘書が書いたとおぼしき木で鼻をくくったようなごくごく短い電報文みたいなのが載って以来、早川も翻訳をぷっつりとやめてしまったのでした。もとより新聞記者出身で、労働党の議員になって政治活動も忙しかったのでしょうが、これでは極東の読者に失礼ではないかと憤った記憶があります。
 生い立ちも純粋な英国人ではなかったし、作風からもちょっととんがった人だろうと察せられました。しかし、ブーム当時から愛読していた読者からすると、彼女の筆がいつも社会から取り残された人々に寄り添うようにその哀歓を情念的に描きだす点が魅力で、そうしたルーサー(負け犬)を突き放すようなプロットをこれでもかと繰り出してくるのも、卑近な人物像を悲劇の主人公に仕立て上げるためだったように思われます。市井のちょっとペキュリア(奇妙)な人々を彼女はギリシャ悲劇やシェイクスピア作品の王や女王に見せてくれたのです。
 真っ逆様に悲劇に逢着するプロットを持った『わが目の悪魔』『ロウフィールド館の惨劇』『荒野の絞首人』『地獄の湖』『殺す人形』『引き攣る肉』といったノン・シリーズの傑作群が現在新刊で入手できないのは、新しい読者層に対して勿体無いです。今でこそこの国でも、湊かなえ氏真梨幸子氏のような「2ちゃんねる鬼女板」的発想のサスペンス作品が広く受け入れられるようになりましたので、レンデルのかつての傑作群も、よりアクチュアリティを獲得したのではないかと。
 ブームの頃、故・瀬戸川猛資氏がミステリマガジンの記事で、レンデル作品をひとくくりに「マズしい感じ、ああ、やだやだ」みたいに揶揄したことがありました。その一文は瀬戸川氏の名作評論集『夜明けの睡魔』に収められているので、ご存知の方もおられることでしょう。
ただ、この一文が、レンデルがヴァイン名義でより深化した作風に変わる前に書かれていることもあって、一方的に偏見を持った言いがかりにしか読めないのは、レンデル・ファンとしては大変悔しいです。流行りものだから噛み付いてみました、というようにしか、受け取れないのです。
 瀬戸川氏はワセミス派閥で北村薫氏や折原一氏、新保博久氏の先輩として知られ、私もその著書をつねづね枕頭の書としているのですが、コリン・デクスターやP・D・ジェイムズを高く評価された一方で、ブームのレンデルに辟易したとしか言いようのない論調には、ご本人の為にも書くべきではなかったのではないかと思います。現代でも特に英国のミステリを論じるときにバイブル的影響力を持つ評論書だけに、このいささか軽率な一文が惜しい気がいたします。
 P・D・ジェイムズ氏の訃報の時にも思いましたが、近頃愛読してきた作家の訃報に接することが多く、特に1980年代ころにピークを迎えた作家がこのところ鬼籍に入ることが多く、私も気持がうち沈んでいます。国の内外を問わず新しい作家には興味がなくなってしまいました。せめてまだ翻訳されていないレンデル氏の作品(Wikiで調べると19冊も未訳が!!!!)が一冊でも紹介されることを願ってやみません。
  1. 2015/05/03(日) 08:01:06|
  2. 英国
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P・D・ジェイムズ氏逝去

james19.jpg
 推理文壇最長老のP・D・ジェイムズ氏が、11月27日英国オックスフォードで亡くなりました。94歳でした。2011年の『高慢と偏見、そして殺人』が最後の長編です。氏の看板シリーズ、ダルグリッシュ警部の最終作は、2008年の『秘密』です。90歳を超えても意欲的なミステリを発表されて、昨年まではインタビューにも応じていられたり、お達者でいるとばかり思っていましたが、訃報を聞くこととなりました。
 ずっとリアルタイムで新作を追って来た作家の訃報をお伝えすることばかり多い昨今ですが、ジェイムズ作品は常に身近に置いて紐解いてきた、私にとって英国小説の規範のようなものでしたので、20冊の長編を静かに読み返して、作者を偲びたいと思います。幸い手許に取り出し易い場所に全作品が揃っていました。
 ジェイムズ作品で私が好きな点は、英国の「建物」という無機物が、登場人物にもまして存在感を発揮していたという一点に尽きます。建物が人間臭いのです。犯罪のディテールは血腥く陰湿なものが多いのですが、それを補って余りあるのが建物の魅力でした。地霊・家霊のようなものが建物に宿り、人間の引き起こす悲喜劇を黙って見守っているかのような安定感が、いつも底流にあります。英国人の古い建物好きの真髄に迫る、いわばゴシック趣味の権化のような作家ですね。遺作となった作品も、ジェーン・オースティンの古典名作の後日譚という意表を突くものでした。「館が主人公」と言われる英国ゴシックの伝統の、最高にして最後の作家でした。
 彼女の作品ではとかく、『女には向かない職業』『皮膚の下の頭蓋骨』の、可憐な女探偵コーデリア・グレイものが推奨されることが多いのですが(現に文庫で入手可能なのはこの二冊)、これらはあくまで本流のダルグリッシュものの外伝であり、処女作『女の顔を覆え』から最終作『秘密』まで半世紀近く主役を張ったアダム・ダルグリッシュの浩瀚なるシリーズが、復刊され再び読まれんことを期待するのですが、代表作『ナイチンゲールの屍衣』『黒い塔』『死の味』『策謀と欲望』はみな絶版。あれれ?早川書房さん頑張って下さいよ。
 ダルグリッシュは詩集を出版するポエットでありながら、スコットランドヤードの警視長まで昇りつめたキャリアの持ち主という、異色の警官です。繊細にして慇懃な彼の魅力をもっと読者に知ってもらいたいと思います。
 新刊が陸続と出ていた頃、ジェイムズ作品はとかく、「重くて読み辛い」との評判が独り歩きしていましたが、オースティンを読むかのようにロマンチックな面にも留意して読んでいただくと、案外すらすら読めるのではないかなと思ったりもします。ダルグリッシュもコーデリアもいいけれど、建物も人格を持っています。その辺りに注目してみてはいかがでしょうか。
 最後になりましたが、Rest in Peace, P.D.James.
  1. 2014/12/01(月) 09:54:47|
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レジナルド・ヒル氏逝去

 レジナルド・ヒル氏が今月の12日に亡くなった。享年75。5、6年前の『ダルジールの死』あたりから、死を覚悟して見据え、なおかつ、茶化すような感じが見えていたけれど、もしかすると癌との闘病はその頃から始まっていたのかもしれない。
 2010年には作家活動40周年を迎えて、何も知らぬ極東の一ファンは、まだまだダルジールの憎まれ口が聞けると思っていたが、こんなに突然に訃報はもたらされた。昨年のベストダズンに最新刊『午前零時のフーガ』を選ばなかったのが、なぜか悔やまれる。モジュラー型がらしくなくって、やや好みから外れていたのだが、そういう贅沢を言えるのも作者が健在であればこそ、詮ないことだ。
  1. 2012/01/19(木) 00:40:14|
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